サステナビリティのさらに向こうへ新たな環境キーワード「リジェネラティブ」とは
サステナブルに代わる新たな概念
いよいよ開催まで1年を切った、2025年大阪・関西万博。その開催目標の一つに「持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献」が定められているように、今やSDGsやサステナビリティの概念は、私たちの生活に浸透し、大きな訴求力を持つようになりました。
しかし最近、サステナビリティのさらに先を行く新たなキーワードとして「リジェネラティブ」という言葉が注目を浴びていることを、皆さんはご存じでしょうか。
そこで今回は、このリジェネラティブをテーマに、サステナビリティとの違いや、それを反映したデザインーーリジェネラティブデザインーーの考え方について解説をしていきます。
リジェネラティブとは?
リネジェネラティブは英語で「regenerative」と表記され、「再生」を意味します。持続可能性を意味するサステナビリティが、現在の環境の悪化を防いで、できるだけ維持していくものに対して、リジェネラティブはそこから回復・改善を目指すものとなります。環境保護において、守りに入る姿勢と攻めに転じる姿勢と捉えればイメージがつきやすいかもしれません。
リジェネラティブが活発な分野としては、農業や水産業といった第一次産業、さらには建築業が挙げられます。
●農業
元々、この言葉は「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」という農業の取り組みを説明する言葉の一部でした。やせ衰えた土壌を再生させて健康にし、減少した植物種の数を回復させながら作物を生産することを指しており、再生のイメージを最も端的に表しているでしょう。具体的には、化学肥料の低減化や田畑を耕さずに栽培する不耕起栽培が例として挙げられ、農場とその周辺おける生物多様性の保護と向上や土壌の中における炭素と水の保持能力を高めることが期待できます。
●水産業
水産業のリジェネラティブで、鍵となるのがブルーカーボンです。ブルーカーボンとは、地球上で排出されたCO₂のうち、海藻や海洋生物によって吸収され、海底に固定・貯留された炭素のこと。マングローブや塩性湿地、海藻藻場といった生態系に生息している海洋生物がCO₂を取り込み、光合成をすることで有機炭素化合物として生成され、海底に固定化・貯留されます。そして、海中で生成されるブルーカーボンは、陸上で生成されるグリーンカーボン(森林や陸上の植生によって貯蔵される炭素)よりも長期の保存ができるため、気候変動の対策として大きな可能性を秘めているのが最大の特長です。海洋環境の保護によってCO₂を減らす働きをももたらすのが、ブルーカーボンによる”再生”なのです。
【参考】ブルーカーボンとグリーンカーボンとは?
●建築業
冒頭で触れたリジェネラティブ・デザインの考え方に基づいて進められていくのが、リジェネラティブ建築です。
自然の力を最大限に生かす農業や水産業と異なり、建築業ではどうしても自然の形を変えざるを得ません。リジェネラティブ・デザインとは、そうしたある種の逆境の中でも人間を自然の一部として捉え、生態系システムで相互に作用するものとして共存を図る考え方です。建築物を通して人間以外の動植物もが主体となる協働関係を構築し、ただ環境に優しいだけでなく、元よりも再生・発展させることを目指すものとなります。
リジェネラティブデザインの例
●アクロス福岡
アクロス福岡を象徴するのが、春になると建造物を覆う緑の山。この緑は「ステップガーデン」と呼ばれており、天神中央公園の緑が最上階まで連続して見えるよう、混植大刈込手法という方法が採用されています。
軽量化と吸水性・保水性を両立した人工土壌によって、風や鳥に運ばれた種が新たに芽吹き、やがて堆積した落ち葉が表土となって微生物や昆虫を養い、その虫を餌とする鳥が集まってはまた種を落としていく。こうした循環型生態系の場を動植物に提供して生態系を発展をさせるとともに、コンクリートよりも高温化しにくい緑化面を多く確保することで、ヒートアイランド現象を低減させることも可能となります。
まさに自然の生態系を取り入れることで、人間の生活環境にも好影響をもたらすデザインの好例と言えるでしょう。
●Sumu Yakushima
国内外のデザインアワードを受賞したリジェネラティブデザイン建築がSumu Yakushima(スム ヤクシマ)です。その名の通り、屋久島に建築されたこの宿泊施設は「住めば住むほど自然が澄んでいく」をコンセプトにしており、室内にいながらで木々に囲まれているように過ごせるように設計されています。
この建築物がリジェネラティブなのは、日本古来の土木工法を採用して周囲の植生に働きかけ、土中環境を成熟させている点です。特に、土中の空気や水の流れにまで配慮した杭や基礎を設計は、土壌菌のネットワークを人為的に作り出すことで、地盤を安定・強化させることを成功させています。
また、発酵した壁の上に麻炭とEM菌を混ぜた漆喰を塗ることで、菌の力を利用して、カビなどの腐敗菌の繁殖を防ぎながら、独特の風合いを演出。
微生物が活発に息づく”再生”によって、豊かな住環境を手にしているのです。
まとめ
これまで世界レベルで目指してきたSDGsやサステナビリティですが、時代が進むとともに、さらにその先の世界も見えてきました。また10年後、20年後にはリジェネラティブを越える概念が生み出されている可能性もあります。そうした進化の流れに取り残されることが無いように、私たちも、世界はこうすればもっと良くなるのではないか?と常に考えていけるとよいでしょう。
Sus&Us編集部