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市民が自然・史蹟を守る運動「ナショナルトラスト」とは

ナショナルトラストとは

ナショナルトラストとは、自然環境や歴史的建造物を市民が寄付や買い取りなどで入手して守り、次代に残す運動です。

運動の始まりは、1895年のイギリス。3人の市民が「国民のために土地を共有する団体=ザ・ナショナル・トラスト」を創設し、カントリーハウスや景勝地の購入・寄贈による保護・管理を進めていきました。1907年には「ナショナル・トラスト法」が制定され、同団体が保有する土地・建物等は譲渡不能とされ、いつまでも守られることが法的にも保障されることになりました。

ピーターラビットの著者であるビアトリクス・ポターも絵本の印税で土地や農場を取得し、ナショナルトラストに寄贈しています。

運動は世界に波及していき、今では各国で「ナショナルトラスト」を冠した団体が設立されています。

日本におけるナショナルトラスト

日本におけるナショナルトラストの始まりは、後に「御谷(おやつ)騒動」と呼ばれる、1960年代に鎌倉で始まった運動です。
鶴岡八幡宮の裏山にある山林「御谷」に宅地造成計画が持ち上がったのを機に、市民がナショナルトラスト団体「財団法人(現:公益財団法人)鎌倉風致保存会」を設立し、同地を買収することで、森を保護することに成功したというものです。鎌倉在住の作家・大佛次郎氏をはじめとする文化人が参加したことでも知られています。

この運動を契機として、1966年には「古都保存法(古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法)」が制定され、古都を乱開発から守る枠組みがつくられました。ちなみに、「古都」には京都市、奈良市、鎌倉市、天理市、橿原市、桜井市、奈良県生駒郡斑鳩町、同県高市郡明日香村、逗子市、大津市の10市町村が指定されています。

また、有名な例としては、ジブリ映画『となりのトトロ』の舞台のモデルの一つとされる埼玉県の狭山丘陵における活動があります。里山である同地を守るため、「公益財団法人トトロのふるさと基金」が1991年から森を少しずつ買い取り、「トトロの森」と名付けて保全を行っています。2022年5月時点で、59箇所の「トトロの森」があります。

日本最大のナショナルトラストと言えるのが、「野鳥のカウント」で知られる「公益財団法人日本野鳥の会」です。1986年から土地の買い取り等による自然環境の保全を行っており、タンチョウやシマフクロウといった絶滅危惧種の保護区を中心に全国で活動しています。なお、野鳥の会=動物愛護団体との誤解が一部にありますが、本来は「野鳥が住むことのできる環境を守る」ことが活動の中心です。


自然環境や歴史的建造物は国や自治体等による保護も進められていますが、すべてをカバーできているわけではありません。行政に任せきりにせず、自分たちで大事なものを守るナショナルトラスト運動は、SDGsの達成を目指す上でも注目すべき活動といえるでしょう。

【参考】

日本ナショナル・トラスト協会「全国のトラスト団体」
日本をはじめ世界のナショナルトラスト団体が一覧にまとめられています。

環境省自然環境局「ナショナル・トラストの手引き」
ナショナルトラストに取り組むに当たり、どんな団体をつくればいいのか、どんな制度が利用できるかなどが紹介されています。

Sus&Us編集部

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