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海だけじゃない、雲の中の「マイクロプラスチック問題」

マイクロプラスチック(大きさ約5mm以下の小さなプラスチック)問題というと、海洋生態系に悪影響を及ぼす問題というイメージが強いかと思いますが、空を漂う雲の中にもマイクロプラスチックが存在し、環境問題や健康リスクを招いていることをご存じでしょうか。そこで今回は今まで注目されてこなかった雲の中のマイクロプラスチック問題について紹介します。

マイクロプラスチック問題とは

マイクロプラスチック問題とは、小さなプラスチック粒子が自然環境に広がり、生態系と人間の健康に悪影響を及ぼす環境問題です。劣化して小さな粒子状に破砕されたプラスチックゴミや衣類の洗濯排水から流れ出た微小なプラスチック粒子は、食物連鎖を通じても拡散し、野生生物や海洋生態系に取り込まれていきます。その結果、生態系への悪影響や毒性、濃縮された微粒子が食品に含まれることで人間の健康リスクが懸念されているのです。

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海洋ごみ問題は今どうなっている?
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雲の中のマイクロプラスチック

このように海水や土壌、雨水の問題だと思われていたマイクロプラスチック問題ですが、その影響が雲の中にも及ぶことが近年になって判明しました。

2023年7月、早稲田大学理工学術院の大河内博教授らやPerkinElmer Japan合同会社をはじめとする研究グループによると、大気境界層に位置する富士山南東麓、丹沢大山山頂で採取した雲水から世界で初めて野外観測によってマイクロプラスチックの存在を明らかにし、その特徴や起源を解明することに成功しました。これまで実証できなかった雲水中のマイクロプラスチックの実態解明に大きな進歩をもたらしたのです。

この研究でわかったことは、大量のマイクロプラスチックが海で発生した上昇気流や台風によって空中に巻き上げられ、高度1000m以上の地表の影響が及びにくく強い風の吹く自由対流圏を通じて大気に輸送されることで、世界中に拡散され、重大な環境破壊や、そこから派生する健康被害への悪循環に繋がっていくことが懸念されるということです。

本来水をはじくプラスチックが、自由対流圏を通じて空に浮かぶ雲の中を漂うことで濃縮され、上空の強い紫外線により劣化することで、温室効果ガスを放出したり雲を生成する雲凝結核や氷晶核として機能するようになります。さらに、マイクロプラスチックに汚染物質が吸着することで親水性を帯び、そこから降雨量分布の変化やゲリラ豪雨など、気候変動への悪影響へと繋がっていく可能性が高いということが明かになりました。雲水にマイクロプラスチックが含まれているということは、マイクロプラスチックの雨が地上に降り注ぐということにもなります。これは地上に降り注いだマイクロプラスチックを直接吸入してしまう懸念だけでなく、農業や畜産業にも大きく影響し、マイクロプラスチックの雨水で育った食物を体内に摂取することで重大な健康リスクになることが懸念がされます。

未解明な部分が多い分野なため、これから研究が進んでいくことで解決策が見つかることにも期待が寄せられます。

まとめ

海洋だけでなく、大気中のマイクロプラスチックを媒介とすることで雲が生成され、豪雨などの異常気象を引き起こしているということには驚いた方も多いかと思います。
マイクロプラスチック問題解決のためにも、今後の研究の発展に注目していきたいところです。


参照元
雲水の野外観測で初めてAMPsを検出

Sus&Us編集部

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