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【デザインから見るSDGs】第二回:株式会社ゴールドウイン「THE NORTH FACE」のシューズボックス

「SDGs×デザイン」の観点で世の中のSDGs関連の取り組みや事例を解説していくこちらのコーナー。第二弾はあのブランドと人気段ボールアーティストのコラボについてです。

買って、履いて、歩く…だけじゃない
THE NORTH FACEの人気シリーズが挑むSDGsとは

 日常で使いやすいカジュアルなルックスに、GORE-TEXによる高水準の防水性能を兼ね備えた「Velocity KnitⅡ(ベロシティ ニット ツー)」シリーズ。これは、世界的アウトドアブランド「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」がプロデュースする高機能シューズです。街や山で使用者とすれ違うことも珍しくないこちらのシューズですが、見た目と機能に続く、もう一つの大きな魅力をご存じでしょうか。
 それは、アップサイクル※可能なシューズボックス(化粧箱)です。
 実は、同シリーズのシューズボックスは、2022年1月より段ボールアーティストの島津冬樹氏とコラボを実施。靴を下した後に残るシューズボックスに新しい価値を与えるプロジェクトを推進しているのです。

「なんだ、靴の話じゃないのか」「箱なんていちいち意識してないよ」と、思う方も多いかもしれません。ただ、そのように意識されにくいからこそ、多くのシューズボックスが無作為に捨てられてきた背景があるのも事実です。
 役割を終えたら捨てられるだけだったシューズボックスに意識を向けさせ、このまま捨てるのは勿体ないと思わせる。世界トップのアウトドアブランドと人気段ボールアーティストのコラボで、そのきっかけを作ろうというわけです。

ゴールドウインは、2030年までに製品・材料廃棄物の100%削減を目指す

 日本において「THE NORTH FACE」の国内商標権を有し、独自の製品開発までを行っているのは株式会社ゴールドウイン(以下、ゴールドウイン)です。「スポーツを通じて、豊かで健やかな暮らしを実現する」の企業理念を掲げる同社は、事業活動を通じて持続可能な(サステナブルな)社会構築とそれに伴う企業価値の向上を目指すと公言しています。そして、その中の環境戦略において、自社の事業だけでなく、サプライヤーや消費者との取り組みも推進するとしているのです。 
 ゴールドウインの環境戦略は「グリーンデザインの推進(環境負荷低減素材への移行)」「脱炭素社会の実現(再生エネルギーへの転換を進める)」「循環型社会の実現(ファッションロス・ゼロ)」を3本柱としています。シューズボックスのアップサイクルは、循環型社会の実現に該当し、2025年までに製品・材料廃棄物の80%削減を、2030年までに廃棄ゼロを宣言。2050年目標では、サプライチェーンにおいても廃棄ゼロを目指しています。
 各取り組みの成果は数字にも表れており、2017年度には148.3tあった廃棄物排出量も、2021年度には52.5tまで削減されています。今回の取り組みも含めて、同社の環境配慮への意識の高さが伺えるでしょう。

 なお、その他のゴールドウインの環境対策についても同社のWebサイトや統合報告書で紹介されていますので、興味のある方はぜひご確認ください。

【株式会社ゴールドウインの統合報告書はこちら】
https://csr-toshokan.net/index.php?page=csr_view.pdf_viewer&from=search&csr_id=6959&

 一方、段ボールアーティストの島津冬樹氏は美術大学在学中の2009年、家にあった段ボールで間に合わせの財布を作ったことをきっかけに活動を開始した、この道の第一人者。広告代理店勤務を経てアーティストへと転身してからは、自身を追ったドキュメンタリー映画が作られたり、エッセイ本を出版したりと活躍の日々を送っています。

無駄のない設計で、一つの箱に四種のアイテムの図面を印刷

「Velocity KnitⅡ」のシューズボックスには、パスポートケース、ポーチ、ラゲッジタグ、ピルケースと四種類のアイテムの図面が、「THE NORTH FACE」のロゴなどとともに印刷されています。図面の外周には切り取り用のミシン目が施されており、アップサイクルする際は、このミシン目に沿って必要なパーツを切り取っていく仕組みです。
 デザイン的に唸ってしまうのは、やはり一つの箱から四種類のアイテムを生み出すスペースの使い方。アイテムの部品にならない箇所には組み立ての説明イラストが入るなど、無駄がありません。さらに、このイラストも非常にわかりやすく、シンプルな図面やミシン目による誘導と相まって誰でも簡単に作れるようになっています。
 また、アップサイクル品であっても外で堂々と使えるように、どのアイテムもTNFのロゴが正面に来るように設計されているのはユーザーにとって嬉しいポイント。ただのケースやポーチではなく、「THE NORTH FACE」だから使いたくなるという、ブランド価値をファッションとSDGsの両面で生かした取り組みです。
 アップサイクルで生まれるアイテムの、全体的な色使いが黒ベースになっているのも、このロゴを活かすためと考えられるでしょう。いかにアップサイクルを意識していると言えども、附属品であるシューズボックスに何種類ものインクを使うことは難しいはず。基本の黒インクか箱自体の地色である江戸茶色。この二種類の色の強さを考えたうえで、黒の塗りつぶしが最もおしゃれになると判断したと思われます。
 黒インクはQRコードの印刷にも適しており、箱に印刷されたコードから特設ページに遷移が可能です。
https://www.goldwin.co.jp/tnf/special/upcycle-collection/

 なお、最近では『Velocity KnitⅡ』以外の靴のシューズボックスもアップサイクルできるようにと、ゴールドウインのWebサイトでは、財布にアップサイクルするための型紙と、作り方のイラストや動画が公開されています。
https://www.goldwin.co.jp/tnf/special/makingawallet/

 ちなみに、Sus&Us編集部のお気に入りもこの財布。アップサイクル品だからこそ、登山やハイキングで汚れても気にせずに済むという逆転の発想で、山や森などの自然の中でのアウトドア活動に重宝すると評判です。

まとめ

 服やバッグ、食品などのアップサイクルはよく聞くものの、シューズボックスのアップサイクルは珍しく、なおかつ今回の取り組みではそれを高いクオリティで実現しています。アウトドアショップで靴選びに迷われた際には、判断の最後の一押しとして「『Velocity KnitⅡ』をはじめとした『THE NORTH FACE』の靴ならば、SDGsへの貢献もできる」と思い出していただければ幸いです。


※アップサイクル:廃棄されるはずだったモノや製品に、デザイン等のアイデアを元に新たな付加価値を与えることで、新しい製品として生まれ変わらせて再利用すること。着なくなった衣類を鞄にしたり、使わなくなった学校用品を家具として生まれ変わらせたりといった事例がある。

Sus&Us編集部

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