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「パッシブデザイン」を知っていますか?SDGsにマッチした建築手法

近年、SDGsへの関心の高まりとともに注目されている家づくりの手法「パッシブデザイン」。その考え方の基本や日本の住宅との関係性などについて解説します。

パッシブデザインとは?

パッシブデザイン(passive design)とは、光や風といった自然のエネルギーを利用して快適な環境をつくる考え方で、建物の設計・デザインに用いられます。

「パッシブ」とは受動的であることを意味します。つまり、冷暖房設備によって環境を能動的(アクティブ)にコントロールするのではなく、自然風や太陽光を取り入れて環境を調節するというアプローチを取るということです。

地球環境への負荷を減らす持続的な住まいとしてSDGsの考え方とも合致しており、注目が高まっています。

パッシブハウスとパッシブデザイン

パッシブデザインという概念は、環境先進国として知られるドイツで生まれた「パッシブハウス」がもとになっています。

「パッシブハウス」は、1990年代に「パッシブハウス研究所」により確立された省エネ住宅のことで、自然エネルギーの活用に関する基準が明確化されている点が特徴です。その土地の気象データを踏まえ、住宅の省エネ性能を数値化して設計されており、消費者側も客観的なデータから家選びをすることができます。

具体的には、下記の基準をクリアした家がパッシブハウスだと認められます。
・冷暖房負荷が各15kwh/㎡以下
・一次エネルギー消費量が120kwh/㎡以下
・気密性能として50Paの加圧時の漏気回数0.6回以下

基準を見てもイメージがわかないと思いますが、この基準をクリアするには例えば外壁が40~50cm程度(日本の住宅は15cm程度が主流)、窓は3重が基本とされることから、基準の高さがうかがえます。実際、日本でパッシブハウスをつくるのは難しく、現在79軒があるのみです(2023年9月20日現在)。

こうしたパッシブハウスを実現するための設計手法が、「パッシブデザイン」という考え方だといえます。

パッシブデザインの基本

パッシブデザインで基本となるのは、①熱、②光、③風をうまく利用することです。

①熱を利用する
太陽熱を取り入れることで、室温を上げます。取り入れた熱を逃さない断熱の工夫も大切です。
また、逆に太陽光を遮る設計にすることで室温上昇を抑制することができます。庇(ひさし)などで日射を防ぐ方法が取られます。

②光を利用する
昼光を取り入れることで、照明に頼らず室内を明るく保つことができます。吹き抜けやガラスを活用した採光方法があります。

③風を利用する
自然風を取り入れることで室温を下げます。暖かい空気は上方に、冷たい空気は下方に溜まる性質を利用し、建物内に風の通り道をつくることが大切です(重力換気といいます)。
また、冬のすきま風は室温を下げるため、気密性を高めることも必要です。

日本のパッシブデザイン

パッシブデザインという言葉は新しいですが、その発想自体はむしろ建築の基本であり、世界中でその地域の気候風土に合わせた家づくりが行われてきました。

もちろん日本家屋もその例に漏れません。電気等が使用できなかった時代の伝統的な建築では、様々な工夫がなされており、今も受け継がれているものがあります。

庇・軒
窓や扉などの上につけられた庇や、屋根が外壁より突き出した軒は、窓や外壁に直射日光が当たることを避け、室温の上昇を防ぎます。また、雨を防ぐことで汚れにくく、長持ちさせることができます。

欄間
天井と鴨居(襖や障子などをはめ込む上枠)の間にある欄間は、装飾的な意味はもちろん、光や風を取り入れる機能を持っています。

障子
外からの光を和らげつつ取り入れることができ、
吸湿や保湿の機能も果たします。もちろん、外部からの視線を防ぐという機能も持ちます。

縁側
外気温や太陽光を直接室内に取り込まない緩衝空間の役割を果たします。それだけでなく、自然風を取り入れた気持ちのいい場所として憩いの場になったり、外と内の中間地点として近所の人とのコミュニケーションの場にもなります。

アルミサッシは時代遅れ?

一方、現代の日本の住宅で問題視されているのが「アルミサッシ」です。アルミサッシの断熱性能は極めて低いとされており、欧米や中国、韓国などでは、日本のアルミサッシは窓の断熱性能に関する基準をクリアしていません。アメリカでは半分の州でアルミサッシの使用が禁止されているほどです。

日本ではコストや加工のしやすさ、耐久性等からアルミサッシが普及しましたが、その背景には日本の断熱性能に関する最低基準が設定されておらず、「夏暑く冬寒い」住宅が大量に作られてきたという実情があります。これに対し、2022年6月に建築物省エネ法の改正が成立し、ようやく基準が設定されることになりました。

アルミサッシの代わりに使われているのは、樹脂サッシや木製サッシです。樹脂サッシはアルミサッシの約1000分の1の熱伝導率であり、先進国では6~8割程度普及している一方、日本では近年普及しつつありますが約1割にとどまっています。

パッシブデザイン実現のためにまず取り組むべき課題だといえるでしょう。

「窓」の重要性についてはこちらの記事「省エネ住宅で考えるべきは「窓」」もご参照ください。

ZEHとの違い

パッシブデザインに関連する用語として、ZEH(ゼッチ)があります。両者の違いは、パッシブデザインが自然エネルギーを活用しそれ以外のエネルギーを節減するという発想を取る一方、ZEHは太陽光発電などを取り入れることで使用したエネルギーを相殺する(ネット・ゼロにする)発想を取るということです。
両者は異なる発想ではありますが、相反するものではなく、それぞれのメリット・デメリットを踏まえうまく取り入れていくことが求められるでしょう。

ZEHについてはこちらの記事「新しいマイホームの形「ZEH(ゼッチ)」もご参照ください。

まとめ

パッシブデザインは、光や風などの自然のエネルギーを活用することで、エアコンなどの使用を抑えた、地球環境にも優しい家づくりの手法です。

四季を感じながら暮らすという、都市生活のあり方を見直す上でも参考になる考え方ではないでしょうか。

Sus&Us編集部

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