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LGBTの支援者「アライ(ally)」とは?ダイバーシティ実現に向けてできること

最近、SNSのプロフィール等で自身が「アライ」であることを名乗る人が増えてきました。本記事では、その意味や関連用語である「LGBTQ+」、「ダイバーシティ&インクルージョン」について解説します。

アライの意味

「アライ」とは、「同盟、味方」を意味する英語「Ally」をもとにした言葉で、LGBTなどいわゆる性的マイノリティを支援している人たちのことをいいます。
基本的には、自分はLGBT当事者ではない(ストレート)が、性的マイノリティの人々に共感し、応援する立場であることを表明する意味で使われます。

今後、ダイバーシティへの理解が進むに伴い、「アライ」は当事者間でも使用したり、他のマイノリティに対して使用したりするなど、適用範囲が拡大されていくと考えられます。

「アライ」には具体的な支援活動を行う人だけでなく、性的マイノリティに理解を示し、当事者と関わる際には「彼らが自分らしくいられるように接しよう」という意思を持っている人も含まれます。

もちろん、「アライ」を名乗ることに資格は必要ありません。自分とは異なる立場にある人たちを尊重し、異なる価値観を受け入れる姿勢があれば誰でも表明することができますし、表明せずとも「アライ」であることもできます。

「アライ」が増えることは、その分だけ社会が多様性を受け入れるキャパシティが広がるということです。「アライ」になることは、ダイバーシティ実現に向け一人一人が今すぐにできる取り組みだといえます。

LGBTとは

「LGBT」とは、性的マイノリティの人たちの総称として使われている言葉で、次の意味を持ちます。

L:レズビアン(Lesbian)=女性の同性愛者
G:ゲイ(Gay)=男性の同性愛者
B:バイセクシャル(Bisexual)=両性愛者
T:トランスジェンダー(Transgender)=体の性と心の性が異なる人


ただし、すべての性的マイノリティがLGBTに分類されるわけではないため、これに「Q」と「+」を加え、より範囲を拡大した「LGBTQ+」が使われる場合もあります。「Q」は下記の意味で、「+」はほかにも性の有り様があることを示しています。

Q:クエスチョニング(Questioning)/クィア(Queer)=性別がはっきりしていない、決めていない人

日本におけるLGBTQ+の割合は、様々な調査により人口の約1割を占めると言われています。例えば「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」では、「ゲイ・レズビアン」「バイセクシュアル」「アセクシュアル(誰に対しても性愛感情を抱かない)」「決めたくない・決めていない」「トランスジェンダー」の合計が8.2%でした。

中には「答えたくない」「自覚がない」人もいると考えられるため、実際の割合はもう少し多いかもしれません。いずれにせよ、その数は決して少なくないことが分かるかと思います。

LGBTQ+の人たちが抱える困難

LGBTQ+の人たちは、下記のような特有の困難を抱えています。これらの多くは偏見や差別、あるいは無知が根底にあり、その解決のためには権利保障や差別禁止に関する法制度等の整備が求められるとともに、多様な性の在り方を認め、理解する一人一人の意識を醸成すること、つまり「アライ」を増やすことが不可欠であるといえます。

・学校で「男のくせに」「気持ち悪い」「ホモ」「おかま」「レズ」などと侮蔑的な言葉を投げかけられ、自尊感情が深く傷つけられた。
・他の人に身体を見られる心配や、他の人の身体が目に入る罪悪感から、学校の更衣室やトイレが使いづらかった。
・ゲイであることを親に告白したところ、親から「ゲイの息子なんていらない」「お前なんか死んだほうがましだ」「いやらしい!きもちわるい」と言われた。
・就職活動の際、結婚などの話題から性的指向や性自認をカミングアウトしたところ、面接を打ち切られた。
・内定は出すけれど、入社時に全社にカミングアウトをすることが採用の条件だと言われた。
・パートナーとの死別に際して、パートナーの家族から喪主になることやお骨の引き渡しを拒否された。
・救急車を呼んだ時に性同一性障害であることを理由に「どう対応したらいいかわからない」と言われ、搬送されるまでに時間がかかってしまった。
・公的な書類に不用意に記載された性別欄と外見の性別が異なるため、本人確認ができないという理由で必要な行政サービスや民間サービスが受けられなかった。

引用元:LGBT法連合会「性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト 第3版」

当事者とのギャップ

LGBTQ+に限った話ではありませんが、当事者でない人が当事者の気持ちを理解するのは簡単なことではありません。

調査によると、「自分はLGBTQ+の悩みを知っている」と答えた非当事者は、LGBTQ+の悩みについて
 ①男女分けされている場所の使用
 ②結婚・パートナーシップ
 ③カミングアウト
を上位に挙げましたが、当事者が答えた悩みは
 ①差別や偏見
 ②LGBTQ+当事者は周りにいないと思われている
 ③結婚・パートナーシップ
が上位でした。
P&Gジャパン合同会社「LGBTQ+とアライ(理解者・支援者)に関する全国調査」より)

分かっているつもりでも分かっていないという実態が示されており、示唆に富んでいます。特に「差別・偏見」は非当事者には見えづらい面もあるため、自分が当たり前に思っていることが当事者にとっても当たり前なのか問い直してみるなど、無意識に偏見やステレオタイプを抱いていなかったか見つめ直すことが必要です。

アライを宣言する企業・団体も増加

「アライ」であることは、個人だけでなく企業・団体にとっても重要であり、取り組みが進んでいます。

実際に「アライ」であることを名乗ったり、同様の意味を持つ「LGBTQフレンドリー」を掲げたりする企業・団体も増えてきました。例えば埼玉県では「埼玉県アライチャレンジ企業登録制度」を設け、県内企業の取組状況を可視化し、LGBTQ+が働きやすい職場づくりの促進を図っています。

登録企業は下記のような取り組みを行っています。
・SOGI(性的指向や性自認)に基づく差別を行わないことを方針として明示している
・従業員向けに性の多様性に関する理解促進のための研修を行っている
・相談体制を整備している
・同性パートナーがいる従業員向け、トランスジェンダーの従業員向けの福利厚生制度がある

LGBTQ+に配慮したサービスとしては、スマホの通信料金に適用される「家族割」が同性パートナーを対象に含めたり、生命保険の保険金の受取人に同性パートナーを指定可能にするなどの取り組みが進められています。

こうした取り組みの背景には、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の考え方があります。

多様性を意味する「ダイバーシティ」は、人種や性別、年齢、障害の有無といった属性にかかわらず、それぞれの違いが尊重されている状態を指します。
一方、包摂を意味する「インクルージョン」とは、そうした多様な人たちがそれぞれ活躍できる場を持っている状態を指します。

D&Iを推進することで、企業にとっては下記のような効果が期待されています。
・多様な価値観を取り入れることにより、それまでになかった新しいアイデアが生まれ、事業創出や組織の活性化・イノベーションにつながる
・門戸が広がることで優秀な人材の獲得機会が増え、労働人口減少・人材不足への対応につながる
・従業員一人ひとりが活躍できる風土・文化が醸成され、労働環境・働き方の改善につながる
・外国人人材の登用やイノベーションなどによるグローバル化への対応につながる
・社外へのアピールになり、イメージアップや投資家の評価につながる

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み

D&Iの取り組みとしては、「女性の活躍推進」「高齢者の活躍推進」「障害者の雇用促進」「外国人材の受け入れ」「働き方改革」などが挙げられ、「LGBTQ+への理解促進」もその一つに位置づけられます。

D&Iの考えに基づく企業経営は「ダイバーシティ経営」と呼ばれ、ESG投資が拡大する中で企業戦略として取り入れる動きが世界的に活発化しており、日本でも主に経済産業省により推進されています(経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」より)。ダイバーシティ経営に取り組む企業は、そうでない企業よりも社員の定着や仕事への満足感、売上といった経営成果がいいことが知られています。

多様性を生かして新たな製品・サービスを創造する取り組みとして注目されているのが、「インクルーシブデザイン」という手法です。高齢者や障害者、外国人、LGBTQ+といったマイノリティーも含めた多様な人々(ユーザー)が製品・サービスの開発プロセス(デザイン段階)に関わることで、平均的なユーザーを想定した製品・サービスが見落としていた視点を取り入れることができ、新しい価値創造につながるというものです。

D&Iの取り組みについては各社の報告書でも紹介されていますので、ご参考ください。
社内の環境を整備するため、社員に対する啓発活動や人事制度の見直し、研修などが行われています。

・日本郵政株式会社「日本郵政グループ SDGs Book 2021
・参天製薬株式会社「参天製薬 統合報告書2021
・日本特殊陶業株式会社「日本特殊陶業グループ 統合報告書2022

そのほかの報告書を見たい場合は、CSR図書館.netのフリーワード検索で「LGBT」「ダイバーシティ」などで探してみてください。700社以上4500冊以上の報告書を一括で検索することができます(利用無料)。

また、SDGsとの関連でいえば、ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」、ゴール10「人や国の不平等をなくそう」、ゴール16「平和と公正をすべての人に」との関わりが深いといえます。

SDGsへの取り組みを進める企業・団体にとっても、「アライ」あるいはD&Iの考え方を取り入れることは有効だといえます。

アライになるために

誰もがアライになれるといっても、相応の知識を身に付け、時にはこれまでの考え方を見直すことも必要です。
単にアライを宣言しただけで見せかけになってしまうケースは少なくありません。身近な存在として「仲良くする」という気軽さを持ちつつも、差別をなくすという目的に向かう「同盟」であることの重さも忘れてはならないでしょう。

そのためには、書籍や当事者の講演などから情報を得ることも大切です。下記の資料や本、研修などを参考に理解を深めていただければと思います。

【資料】
多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~(令和元年度厚生労働省委託事業)
https://www.mhlw.go.jp/content/000630004.pdf

【書籍】
職場のLGBT読本:「ありのままの自分」で働ける環境を目指して(実務教育出版、2015)
https://jitsumu.hondana.jp/book/b195523.html

法律家が教える LGBTフレンドリーな職場づくりガイド(法研、2019)
https://www.sociohealth.co.jp/book/detail/30270608/

真のダイバーシティをめざして―特権に無自覚なマジョリティのための社会的公正教育(2017、上智大学出版)
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9320

【研修】
アライ育成研修(P&G)
https://jp.pg.com/newsroom/202206lgbtq/

まとめ

「アライ」は、LGBTQ+の支援者であり、誰もがなれるものです。

企業・団体ではダイバーシティ&インクルージョンの一環として取り組みが進められています。

差別のない世界を実現するため、LGBTQ+の人たちが抱える困難を知り、一人一人が多様な性の在り方を認める柔軟な考え方を身につけることが大切です。

Sus&Us編集部

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