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CO2を抑える次世代エネルギー「水素エネルギー」
日本がリードする技術と今後の課題とは?

CO2発生の一大原因となっている化石燃料

気候変動対策や地球温暖化対策の中心的な話題といえば、やはりカーボンニュートラル(脱炭素)でしょう。その名の通り、二酸化炭素(以下、CO2)を抑えるために世界中で様々な取り組みが進められていますが、特に緊急性が高いのが、石油や石炭といった化石燃料の使用の抑制です。
2019年に発表された研究では、2016年に世界全体で排出されたGHG(CO2 を含む温室効果ガス)は、約451トン。化石燃料の燃焼によるCO2排出量は、その内の70.3%に当たる約317億トンだと判明しており、化石燃料の使用が如何に地球温暖化に直結するか明確になりました*1。さらに、国際研究チーム「グローバル・カーボン・プロジェクト」の発表では、化石燃料由来のCO2は2021年に363億トン、2022年に366億トンが排出されたと試算されており、その排出量は増加傾向にあります*2。

一方で、化石燃料を使わずに私たちが生活を営んでいくことは、現時点ではほぼ不可能です。CO2を出したくない。けれど、電力をはじめ、化石燃料由来のエネルギーはまだまだ欠かせない。地球の環境と私たちの生活を両立させるためのジレンマを解消するにはどうしたらよいのか……。
その答えの一つがCO2排出量の少ない代替エネルギーの活用です。そして現在、その利用・生成の両面で注目を集めているのが水素であり、本記事ではその特徴を紹介します。

代替エネルギー、水素のメリットとは?

代替エネルギーとしての水素の主たる特長は、下記の2点が挙げられます。
【1】燃焼時にCO2を排出しない
【2】あらゆる資源からの生成が可能

【1】の「燃焼時にCO2を排出しない」は、水素が代替エネルギーとして期待される理由の根幹といえるでしょう。中でも、燃料電池自動車(以下、FCV)や燃料電池バス(以下、FCバス)といった自動車の原動力として活用されることで、化石燃料の代替エネルギーとしての存在感が増している状況です。
なお、2023年時点で世界2位の中国に猛追されているものの、日本は水素関連の技術開発、特に「利用」の技術においては世界に先駆けた存在となっています。現在はEV開発へ方針をシフトチェンジしているトヨタ自動車も、数年前まではFCVを本筋と考えていました。2代目FCV「ミライ」が、最大約850kmの航続距離を記録するなどその技術力は非常に高度なものを有しています。
そして、こうしたFCVやFCバスの根幹を支えている技術が燃料電池です。電池と名付けられているものの、蓄電と放電を行う従来の電池とは異なり、水素と酸素の化学反応によって直接「電気」を発電する発電装置となっています。EV(電気自動車)と異なって外部で発電した電気を必要としないため、環境負荷がより低く、さらに熱機関を用いる従来の発電方式より高い効率も期待できるのです。
もちろん、水素を補給するための水素ステーションの設置や水素自体の価格など、技術に起因する問題は多く残りますが、非常に夢のある技術だといえるでしょう。

次に、【2】の「あらゆる資源からの生成が可能」な点について説明します。
まず水素は水の電気分解以外にも、天然ガスや石油、LPGの化学分解によっても生成できる気体です。前者を改質法、後者を電解法といい、現在は天然ガスを用いた電解法が主流となっています。また、海水を使って食塩を取り出す際にも水を電気分解する方法が用いられるため、製塩時の副産物として水素を得ることが可能です。
この他、石炭を蒸し焼きにして水素と一酸化炭素(CO)の混合物である石炭ガスを作る手法もとられるように、水素の生成にはさまざまな選択肢があります。しかも、カーボンニュートラルに向けて、近年では電気分解に再エネ(再生可能エネルギー)由来の電気を用いたり、バイオマスの原料に化学分解を起こしたりといった手段がとられるようにもなってきました。

話題のグリーン水素、ブルー水素とは?

水と再エネの電気とで作った水素は「グリーン水素」と呼ばれ、近年注目を集めています。
グリーンの名が表すように、生成から使用まで、CO2を排出しないことが特長です。最近では、東レと山梨県が、太陽光で発電した電力を用いてグリーン水素を生成しては地域の特産品として売り出すべく、実用化に向けたさまざまな研究開発を行っています。
また、「グリーン水素」と共によく聞かれるもので「ブルー水素」があります。こちらは、天然ガスや石炭等の化石燃料に対して、蒸気メタン改質や自動熱分解を行うことによって生成した水素です。この手法では、本来、CO2が排出されますが、CCSやCCUS(「二酸化炭素回収・貯留」技術)などによってCO2を回収することで、GHGの排出を実質ゼロすることが可能となります。そのため、グリーン水素と並んで環境負荷の少ない水素と称されているのです。ちなみにCO2を回収しない場合、その水素は「グレー水素」と呼ばれます。

水素をめぐる世界情勢、日本の計画は?

先述のように、燃料電池など水素を使う技術には優れる日本ですが、その調達においては悩みを抱えているのが現状です。
かつてのLNGのように大量製造や大量輸送を可能にする大規模サプライチェーン(供給網)を構築したいところですが、水素をめぐる争いは世界中で熾烈を極めています。特に、ロシアのウクライナ侵攻以降は、EUが脱ロシアを図るためにも水素の安定調達を進めており、2022年5月には「北アドリア海水素バレープロジェクト」という官民連携の実証実験を開始。将来的には年間5000トンの水素生成を目標にしていると言います。元々が脱炭素に積極的なEUですが、世界情勢によってさらに弾みをつけた形となりました。
また、オーストラリアでは、同国のエネルギー最大手ウッドサイド・ペトロリアムが、大規模設備を国内に備え、2027年目標で水素生産に乗り出しています。当該施設は2021年時点に建設計画を立案。1日当たり最大1,500トンの水素を生成し、液体水素やアンモニアとして輸出するための施設として、オーストラリアはもちろん、世界全体でも最大規模の施設とすることを目指しているようです*3。

そうした中、日本では2023年の2月に経済産業省 資源エネルギー庁が「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」を発表。大規模かつ強靭なサプライチェーンの構築を、既存燃料との価格差に着目しながら進めていくための計画をまとめました*4。
その中でも特筆すべきは、世界に先駆けて建造した液化水素運搬船など、輸送設備の大型化等の技術開発や大規模水素運送実証を支援するとした点。そして、供給コストを2030年目標で30円/Nm3、2050年に20円/Nm3以下とするとした点でしょう。もし、2050年目標の20円/Nm3以下が実現したならば、その価格は現在の化石燃料とほぼ同等になる試算です。
水素の国際輸送実証としては、液化水素で川崎工業が、メチルシクロヘキシン(MCH)で千代田化工等による技術組合“AHEAD”が実施主体となって、既に実証を済ませています。山梨県と共同でグリーン水素の生成に乗り出す東レ以外に、旭化成なども国内生成に取り組んでいますが、日本でサプライチェーンを築くには海外からの輸送が軸となるので、国際輸送実証への期待値は高まるばかりでしょう。

ここから先、カーボンニュートラル実現、その先にある国際競争力向上のために、水素の安定・安価な供給はほぼ必須といえます。技術的な問題に加えて、どういった水素キャリアを選ぶのかなど多くの分野で課題がついてきますが、日本が化石燃料依存からいち早く脱却し、技術力によって水素社会をリードしていくことを願うばかりです。


【出典】
*1:三菱UFJリサーチ&コンサルティング:「化石燃料の採掘時に漏出する温室効果ガスの実態~排出量算定に関する透明性・正確性向上が必要~」
*2:グローバルカーボン・プロジェクト「プレスリリース:2022 年 11 月 11 日(金)00:01 GMT 解禁 」
*3:Woodside Energy Ltd.「Media Release」
*4:経済産業省 資源エネルギー庁「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」

Sus&Us編集部

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