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バリアフリーは今どうなっている?基本的な意味や最新動向を紹介

バリアフリー

本記事では、バリアフリーについて、基本的な意味や背景にある考え方、具体例、進捗状況を解説しています。また、障害者への投票支援やAI・ロボットの活用、ユニバーサルデザインといったバリアフリーに関わる最新動向も紹介しています。

バリアフリーとは

バリアフリーとは、社会生活を送る上で不便に感じること(=バリア、障壁)をなくすこと(フリー)です。もともとは建築業界で使われていた用語で、建物の段差を取り除くといった物理的なバリアの解消を指していました。

現在ではより広い意味で使われるようになっており、下記の4つの種類に大別することができます。

①物理的なバリア

道路や建築物、設備などの構造による物理的なバリア
(例)
・建物の入り口が狭い、段差がある
・エレベーターのボタン位置が高く、車いすの人がボタンを押せない
・白杖で確認できない位置に看板が飛び出ている
・ハサミが右手でしか使えない構造になっている


②制度的なバリア
社会の制度・ルールによるバリア

(例)
・障害があることを理由に就職や資格試験の受験などを断られる
・点字での受験が認められていない

③文化・情報面のバリア
情報が伝わらないことによるバリア

(例)
・電車内のアナウンスが音声のみで耳の不自由な人に情報が伝わらない
・案内文に専門用語など難しい言葉が使われており、理解しづらい
・ATMなどがタッチパネルにしか対応しておらず、目の不自由な人が使用できない

④意識上のバリア
差別や偏見、認識不足、無関心など心のバリア

(例)
・「障害者はかわいそう」、「精神障害者は何をするかわからないから怖い」などの決めつけや偏見
・点字ブロックの上で立ち話をしている人がいて目の不自由な人が通れない
・盲導犬を連れている人がレストランの入店を断られる(※お店や施設、公共交通機関は盲導犬など補助犬の同伴を拒否してはいけないことが身体障害者補助犬法により定められています)

参考:政府広報オンライン「知っていますか?街の中のバリアフリーと「心のバリアフリー」」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201812/1.html

バリアフリーの基本的な考え方「社会モデル」とは

障害のある方が様々なバリアにどう対処すべきかについては、大きく2つの考え方があります。

1つ目は、障害者が自分自身で問題を解決する「医学モデル」です。
「バリアがあるのは障害があるから。だから治療や訓練などによりその障害を克服すればバリアはなくなる」という考え方です。
障害を治し、乗り越えようとすること自体は大切ですが、「障害者は治療に専念すべき」と社会参加の機会が奪われたり、「社会に適応できないのは障害者自身のせい」といった自己責任論に陥りやすいなどの問題点が指摘されています。

2つ目は、社会の側がバリアを取り除く「社会モデル」です。
「バリアがあるのはこの社会が多数派中心に作られており、少数派である障害者に対する配慮がなかったから。だから、バリアを取り除くのは社会の責務である」という考え方です。これは、上記のような「医学モデル」の問題点への反省から生まれました。

社会モデルの考え方は国連の「障害者権利条約」(2006年採択)によって示されており、日本では「障害者差別解消法」(2016年施行)により法的にも位置付けられています。

この障害者差別解消法で示された概念に、「合理的配慮」があります。これは、「障害者の人権が障害のない人と同じように保障され、平等・自由に社会生活を送れるように周りの人が可能な限り配慮すること」を意味します。

配慮とは、「有利にする」「ひいきする」ということではなく、「障害のある人もない人も同じようにできる状況を整える」という意味合いです。

合理的配慮の具体例
・段差がある場合に携帯用スロープなどを使って補助する
・障害の特性に応じて座席を決める
・点字、手話など様々なコミュニケーションに対応する
・券売機の操作を手伝う

筆談

内閣府HPに事例集も掲載されていますので、ご参照ください。

2024年4月から、会社やお店などの事業者に対し合理的配慮の提供が義務化されます(現在は努力義務)。

なお、現在は「社会モデル」が主流となっていますが、万能の考え方というわけではなく、依然として医療自体の有効性が否定されるわけではありません。

バリアフリーの具体例

・点字ブロック
視覚障害者の移動をサポートするため、目的地までの進行方向や階段、障害物、分岐点などを教えてくれるブロックで、街中の道路や駅のホームなどに設置されています。
ちなみに、点字ブロックは日本発祥で、1967年に岡山県で初めて設置されました。

ブロック

・スロープ
階段や段差を解消するため、建物の出入口などにスロープが設置されています。電車に乗り降りする際、ホームと電車の隙間を解消するために駅員がスロープ板で補助する光景も見られます。

スロープ

・多機能トイレ、だれでもトイレ
車いすが回転できるスペースがあるトイレ、ベビーベッド・ベビーチェアやオストメイト用設備(人工肛門対応設備)が設置されたトイレです。

多機能トイレ

・電車やバスの優先席
高齢者や病気・怪我をした人、障害者、妊娠中や子供連れの人などが優先的に利用できるように設けられた座席で、入口近くに確保されています。

優先席

・案内表示
情報面のバリア解消のため、音声案内やピクトグラム、点字など様々な表示が行われています。

ピクトグラム

・バリアフリー住宅
玄関にスロープを設置する、お風呂の段差をなくす、手すりを設置する、扉を引き戸にするといった工夫がなされています。

手すり

このほか、車いすの人やベビーカー使用者にエレベーターを譲ったり、盲導犬など補助犬の邪魔をしない(触ったり話しかけるのはNG)といった配慮ある行動もバリアフリーの取り組みといえます。

日本におけるバリアフリー化の進捗状況

現在、日本におけるバリアフリー化は、主に2006年施行のバリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)に基づき推進されています。

鉄道の駅、バスターミナル(※)のバリアフリー化の進捗状況を見てみると、下記の通りここ20年で進展していることがわかります。
※2000年は1日平均利用者数5,000人以上、2021年は1日平均利用者数が3,000人以上の駅・ターミナルが対象

【公共交通機関のバリアフリー化の状況】
・段差の解消
 2000年28.9%→2021年93.7%
・視覚障害者誘導用ブロックの設置
 2000年57.2%→2021年97.2%(新基準では42.8%)
・障害者用トイレの設置
 2000年0.1%→2021年91.8%
・案内設備の設置
 2021年76.9%

出典:国土交通省「公共交通機関におけるバリアフリー化が着実に進捗!~令和3年度 移動等円滑化に関する実績の集計結果概要~」
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000349.html

一方、「心のバリアフリー」の認知度が約24%(2019年度)という調査結果もあります。知っていればいいというものでもありませんが、広い意味でのバリアフリーに対する理解はまだ不十分であることがうかがえます。

【最新動向①】障害者への投票支援

バリアフリー化を進めるべき課題の1つとして、障害者への投票支援が挙げられます。

日本における選挙制度では、投票所に赴いての自筆投票が原則とされていることなどから、高齢者や障害者が選挙に参加しづらい現状があります。それどころか、知的障害や精神障害などで後見人をつけている人は2013年の法改正まで選挙権がありませんでした。

障害者の投票率などのデータもなく、解決すべき問題は山積していますが、制度・環境の見直しやコミュニケーション面のサポートなど、下記のように少しずつ投票のバリアフリー化への取り組みが始まっていることも確かです。

・代理投票
自筆での投票が難しい場合、係の人に代わりに書いてもらうことが可能です。候補者を指さしたり、うなずいたりすることで投票する人を伝えます。

・郵便投票
重い障害がある場合に限られますが、郵便投票が認められています。

・コミュニケーションボードの活用
よくある質問に対する回答をイラストや文字でまとめたコミュニケーションボードを設置する地域が増えています。

ちなみに、世界の例を見ると、インドでは文字が読めない人が多いこともあり、2004年からボタンを押すだけの電子投票機が導入されています。

NHKのサイト「みんなの選挙」では、障害別の投票支援や各地の取り組みなどが紹介されています。

【最新動向②】AI、ロボットの活用

近年はAIやロボット等のテクノロジーを活用したバリアフリーの取り組みも進んでいます。

米Microsoft社は2018年からの5年間で、障害者を支援するためのAI技術に投資するプログラム「AI for Accessibility」を提供しています。
その成果の1つが、視覚障害者向けのiPhoneアプリ「Seeing AI」で、スマホのカメラを通して文字や周りの風景、人を音声で読み上げてくれます。

また、米Google社は、発声が困難な人が表情で意思伝達を行えるようにするシステムなどの開発を行う「Project Euphonia」など複数のプロジェクトを立ち上げています。

身近なところでは、iPhoneの画面読み上げ機能などもバリアフリーの例として挙げられます。

道路交通では、警察庁が2020年度から高度化PICSという歩行者支援のシステムを開始しています。これは、Bluetoothを活用し、信号機の情報がスマホに送られるというもので、「○○方向は赤です」といった音声などが流れます。スマホを操作することで、青信号を延長することも可能です。
2022年10月末現在で、宮城県の120交差点をはじめ全国373交差点の信号機が対応しています(警察庁「高度化PICS整備交差点」より)。

そのほか、重度障害者がロボットを操作して接客を行う「分身ロボットカフェDAWN」は、テレビなどでも紹介され、話題を呼びました。寝たきりの人が社会参加するには外出の困難さや働ける場所がないなど様々なバリアがありますが、テクノロジーを活用してバリアフリーを実現した好例といえます。

【最新動向③】ユニバーサルデザインとの違い

バリアフリーに関連して、「ユニバーサルデザイン」という言葉があります。

バリアフリーは「社会に存在するバリアに対処する」という考え方ですが、ユニバーサルデザインは「そもそもバリアのない社会をデザインする」という発想をとります。

建物の入口の段差にスロープを設置するのがバリアフリー、最初から建物の入口に段差を設けないのがユニバーサルデザインです。

また、バリアフリーは主に高齢者や身体に不自由のある人を想定していますが、ユニバーサルデザインは障害の有無、年齢、性別、人種、文化などの違いも考慮したすべての人を想定している点も特徴といえます。「障害者を特別扱いしない」、これもユニバーサルデザインのコンセプトです。

ユニバーサルデザインを提唱したロナルド・メイス氏(米、1964-1998)は、建築家やデザイナーらと「ユニバーサルデザインの7原則」をまとめています。

ユニバーサルデザインの7原則
①誰でも公平に利用できること
②いろいろな方法を自由に選べること
③使い方が簡単ですぐわかること
④必要な情報がすぐに理解できること
⑤うっかりミスや危険につながらないデザインであること
⑥無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること
⑦使いやすい大きさ・スペースを確保すること

■ユニバーサルデザインの例
・レバー式の蛇口、センサー式の蛇口
レバー式は少ない力で使うことができ、指だけでなく手首などほかの部位でも使うことができます。センサー式は力を必要とせず、接触も不要です。

・ドラム式洗濯機
洗濯物の出し入れ口が横にあるため、高齢者や車いすの人、背の低い人にも使いやすくなっています。

・エレベーターの鏡
車いすの人が降りる時に後ろを確認することができます。副次的に、身だしなみのチェックや犯罪防止にも役立っています。

・ピクトグラム
文字に頼らないデザインで情報を表すため、子供や日本語がわからない外国人など誰にでも伝わります。非常口やトイレ、インフォメーションセンターの案内など様々な場面で用いられています。

・シャンプーの容器
シャンプーの容器にギザギザのきざみをつけ、リンスのボトルと区別をつけることで、視覚障害者はもちろん、目をつぶって洗髪していても取り違えにくくなっています。もともと花王が開発し、業界で統一するように働きかけたことで普及しました。

■インクルーシブデザインとは

ユニバーサルデザインに似ている概念として、インクルーシブデザインがあります。

インクルーシブデザインとは、障害者や高齢者、外国人などマイノリティも含めた多様な人々(ユーザー)が一緒になってデザインに参画するという考え方です。デザインする主体にデザイナーが想定されているユニバーサルデザインとはその点が異なります。

様々なユーザーがデザインに関わることで、実際に利用する側の使いづらさなどの問題点を直接吸い上げ、商品やサービスづくりに反映させることができます。その結果、出来たものがユニバーサルデザインに適うものになっていることも多く、目指すところは基本的に共通しています。

インクルーシブデザインはイギリスのロジャー・コールマン氏が1990年代前半に発表した概念です。日本における認知度はまだ高いとはいえませんが、インクルーシブデザインを掲げていなくても、ユーザーの意見を取り入れて製品開発を行う例は少なくありません。SDGsの浸透に伴い、今後より積極的に活用されていくことが予想されます。

■インクルーシブデザインの例
・フォント
モリサワのUDデジタル教科書体は、開発段階から弱視や読み書き障害の子供たちの意見も反映しながら開発されたフォントです。「ユニバーサルデザインを標榜するフォントは様々出ているが、デザイナーの工夫によるものが多く、当事者の声を反映していない」という問題意識から、インクルーシブデザインの手法が取り入れられました。
筆書きに近いフォントでは線の強弱があるため読みにくかったり、ハライの尖った部分を怖いと感じる人がいるといった問題や、印刷用のフォントでは画数や書き順がわかりづらく教育には向かないといった問題を解決するデザインとなっており、実際に弱視の人にも読みやすいことが実証されています。

参考:モリサワ「UDデジタル教科書体」
https://www.morisawa.co.jp/topic/upg201802/

・だれもが遊べる児童遊具広場
東京都では、障害のある子供の意見を取り入れた公園遊具の整備を進めており、2020年に砧公園で「みんなのひろば」、2021年に府中の森公園で「もり公園にじいろ広場」がオープンしています。車椅子のまま遊べたり、介助者と一緒に利用できる遊具などが設置されています。

参考:東京都建設局「だれもが遊べる児童遊具広場の整備」
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/park/tokyo_kouen/kouen0086.html

まとめ

高齢者や障害者のバリアを除去するバリアフリーが浸透し、道路や建物だけでなく、制度や情報、心のバリアフリーも含むようになりました。

さらに、あらゆる人にとって使いやすいユニバーサルデザインの考え方も登場し、障害者も社会づくりに参画するインクルーシブデザインも取り入れられるようになってきました。

身近にある物事をバリアフリーの観点から見つめ直してみると、新たな発見があるかもしれません。

「だれひとり取り残さない」というSDGsの理念とも合致するこれらの取り組みを通し、多様性が尊重され、誰もが安心・安全な暮らしを享受できる社会が実現することが期待されます。

Sus&Us編集部

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