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地球温暖化だけじゃない
企業間取引から見る
カーボンニュートラルが大切な本当の理由

カーボンニュートラルはSDGsの多くのゴールと関係

 SDGsの実現におけるキーワードの一つに「カーボンニュートラル」があります。
カーボンニュートラルとは、人類の経済活動によって生じる、二酸化炭素(以下、CO2)やメタン等の温室効果ガス(以下、GHG)の排出を実質ゼロにすること(関連:キーワードでわかるSDGs「温室効果ガス」 )。実質ゼロというのは、GHGの排出と森林などによる吸収を差し引きして、トータルでゼロにするという意味です。

 SDGsでは、目標13「気候変動に具体的な対策を」を筆頭に、目標07「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や目標12「つくる責任 つかう責任」が直接的に関わってきます。
 また、温暖化の影響は農業や水産業に悪影響を及ぼして、食糧危機や自然災害、海面上昇なども招くため、目標01の「貧困をなくそう」や目標02の「飢餓をゼロに」、目標11「住み続けられるまちづくりを」にも関連。再生可能エネルギー(以下、再エネ)や蓄電池、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS・CCUS)といった技術革新に照らし合わせれば、目標09の「産業と技術革新の基盤をつくろう」も関係が深いといえます。

今までの地球温暖化対策と扱われ方が違う?

 上記のように、カーボンニュートラルは関連ジャンルが多岐にわたり、環境以外の話題と紐づけて語られやすい点も特徴です。特に、再エネやEV(電気自動車)などの技術革新、企業の排出量算定サービスやカーボンクレジットといった新たなビジネス創出の機会として語られる点。これこそが、以前より言われてきた地球温暖化対策とは異なる熱量で、カーボンニュートラルが語られる所以です。
 しかもビジネス創出というものの、再エネの発展においては欧州圏の方が先を行っており、主軸の自動車産業でも従来のガソリン車からEVへと大きな転換を求められるなど、日本経済にとっては逆風の状況といえます。

 中でもトヨタ自動車は、ガソリン車で使用可能な水素とCO2の合成液体燃料「イーフューエル(e-fuel)」に期待を寄せていた時期もあり、5大自動車グループの中ではEVに消極的と見られてきた経緯があります。2021年12月に豊田章男前社長が「2030年までに30車種のEVを投入する」と発表したのも、そうしたネガティブなイメージを覆し、テスラ(米国)や比亜迪(中国)といった海外勢に追いつかんとする意思表示だったといえるでしょう(関連記事 https://susus.net/release/5648/)。

サービス業や小売業もカーボンニュートラルに励むのは何故?

 もちろんカーボンニュートラルに取り組むのは、エネルギー業界や自動車業界だけではありません。日本国内のあらゆる業界・企業が、競争に乗り遅れないようにCO2の排出削減目標を掲げ、その達成に向けて邁進しています(関連: CSR図書館 )。
 とはいえ、CO2を出さないこと、それ自体が価値を持つ再エネやEVと異なり、その他のメーカーや情報通信などのサービス業、小売り業といったありとあらゆる企業がカーボンニュートラルに取り組むのは何故でしょうか。もちろん、企業イメージの向上も一つの大きな理由です。ただ、それ以上に大きいのはCO2を減らさないと企業間取引に影響し、従来通りの経営が難しくなることでしょう。

企業がカーボンニュートラルを進める最大の理由は?

 2022年2月、日本取引所グループ(JPX)がGHGの情報開示状況を調べることを発表し、4月にはプライム市場の上場企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース※1)提言か、それと同等の開示が義務化されました。開示に向けた準備に追われる企業も出現しており、正確な排出量を測定するサービスも増加傾向にあります。
 また、2021年5月には、三菱UFJフィナンシャル・グループが2050年投融資カーボンニュートラルを宣言しています。その内容は、投資先、融資先企業のCO2排出量が総計でゼロである状態、2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス(以下、GHG)排出量ネットゼロを目指すとするものでした。さらに同年8月には三井住友フィナンシャル・グループも同様の内容を宣言しています。

 これらが意味するところは、投資先・融資先は2050年に向けてカーボンニュートラルを目指さなくてはならないということです。ここに、多くの企業がカーボンニュートラルに励む理由の核があります。
 しかも、同じ流れは金融関係に限りません。例えば、カーボンニュートラルを宣言している上場企業があれば、そこに部品を供給するサプライチェーン(供給網)企業にも、CO2の排出制限が求められます。トヨタ自動車は、2021年6月に、直接取引する世界の主要部品メーカーに対して、CO2排出量を前年比3%削減するよう求めましたが、同様の動きが各所で起こりつつあるのです。

CO2排出量が輸出入にも大きな影響を及ぼす

 この流れは海外でも同じです。2021年4月にはアメリカの大手投資会社ブラックロックスが、カーボンニュートラルに向けた取り組みの度合いによっては、投資を引き上げると述べたことが大きな話題となりました。実際には、カーボンニュートラルを推進しつつも、投資引き上げには消極的な姿を見せた同社でしたが、CO2の排出量が企業価値に直結し、海外企業との取引において重要であることを見せつけた形です。
 他にも、2021年11月には、欧州(EU)連合委員会が、環境規制の緩い国からの輸入品に課税する「国境炭素税」の導入を発表しており、CO2の削減と海外取引との相関関係は高まりを見せています。

 
 カーボンニュートラルは地球温暖化やそこから広がるさまざまな環境問題への対応という点でもちろん重要ですし、多くのジャンルにつながるSDGsのコア課題といえます。ただ、企業や各自治体が率先して推進しようとする背景には、環境意識以外の観点もあることを覚えておいた方がよいでしょう。

※1:Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称。
気候変動に関する取り組みを発表するよう、企業側に促すためにつくられた提言。

Sus&Us編集部

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