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CO₂削減量をお金で買う? カーボンクレジットを取り巻く世界の動きについて
後編:カーボンクレジット用語集

 先の COP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)及びCOP27でも議論の的となった、JCMを中心とするカーボンクレジット。後編の今回は、カーボンクレジットに関するキーワードの内、国際関係の中で特に重要なものをいくつか取り上げ、解説する用語集です(前編はこちら)。

 まずは基本となるカーボンクレジットの概念について解説しましょう。

カーボンクレジット

 カーボンクレジットを日本語に訳すと「排出権」。つまり、CO2をはじめとした温室効果ガス(GHG)を排出する権利のことです。

 カーボンクレジットの根幹は、再エネ導入や森林保護、省エネ技術の開発といったプロジェクトによってCO2削減量を創出し、それをクレジットとして売買する考えです。
カーボンクレジットの運用によって
①創出したクレジットを販売することで、資金調達が可能となる
②クレジットの購入で、自助努力では削減困難なGHG排出量と相殺することが可能となる(これをカーボンオフセットという)
という流れが生まれます。

 カーボンクレジットは、現在、日本国内だけでも多くの種類が存在します。その多くは主に企業単位で取引されており、各企業の削減目標に足りない分をオフセットするのに用いられているのです。
 そして、企業間でオフセットした排出量を国全体の成果として計上する動きもあります。とはいえ、カーボンクレジットはその種類の多さに反して、日本全体の排出削減目標であるNDCに適用(計上)可能なものは、限られているのが現状です。政府がカーボンクレジットの制度整備を進めるのも、有効なクレジットの運用によって少しでもNDCという国全体の目標達成に近づけたいからであり、カーボンクレジットを扱う上での最も大きな目標であるといえます。

 そこで、次の項目ではNDCをはじめとした、カーボンクレジットの貢献先(計上先)についていくつか解説したいと思います。

NDCー国が決定する貢献ー

 NDCとは、Nationally Determined Contribution(国が決定する貢献)を略した言葉です。カーボンニュートラルの話題においては、パリ協定の批准国が5年ごとに提出・更新する国単位での「排出削減目標」を指します。

 カーボンクレジットに関して語られる際は、「NDCに活用できる」「NDCの達成に活用可能」といった形で言及されることが多く、その達成に向けた要素の一つとして各クレジット制度があるという関係性です。このとき、活用“できる”や“可能”といった表現が使われるのは、パリ協定6条(市場メカニズム)の実施ルールを踏まえていることが必要だからで、NDCに活用できないクレジット制度も存在します。
 環境省はこの件について「日本提案である排出削減プロジェクトの実施国の政府が「承認」したクレジットのみをNDC等にて利用可とする案が採用」と公表しています。

 なお、似た用語であるINDC(intended nationally determined contribution)は、2015年のパリ協定以前での貢献案のこととなります。

ITMOsー国際的に転移される緩和の成果ー

 ITMOsとはパリ協定第6条2項に定められた国際的に転移される緩和の成果(Internationally Transferred Mitigation Outcomes)のこと。つまり、ある国(仮にA国とする)が、別のB国で創出された”排出削減の価値”を獲得したことで達成したとされる、実質的な排出削減の成果です(獲得は購入の他、技術支援などでも可能となります)。
 
 カーボンクレジット制度を利用した国際間取引は多数存在しますが、NDCに貢献できるのは、ITMOsとして認められたものだけとなります。そのため、ITMOsは排出削減の成果であるとともに、国際的なクレジットの規格であるともいえます。そして、その認証には多くの定義を満たすことが必要です。

ITMOsの定義は
①実在し、検証され、追加的
②国際移転される排出削減量、吸収量
③二酸化炭素(tCO2 eq)、またはその他の単位
④NDC達成に使用
⑤2021年以降の緩和成果
⑥以下の目的のための仕様が承認された緩和成果
 CORSIA等の国際緩和目的
 その他の目的
⑦以下の目的のための仕様が承認された6条4項メカニズムの下の排出削減
 NDC
 CORSIA等
 その他の目的
(以上、環境省「COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム) 解説資料」より)
とされています。
 
 先のCOP27では、ITMOsの二重計上を防止するルールを定めることが決定されました。二重計上とはそのままの意味で、各国のNDC達成へのカウントが、移転国と獲得国の両方で行われることを指します。これを防ぎ、獲得国の目標達成にのみ正しくカウントされる仕組みつくりが急務となっています。日本が進めてきたJCMはその好例であるとして、パリ協定6条2項において言及されたのです。

CORSIAー国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び排出削減スキームー

 CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)は国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び排出削減スキームです。特定のカーボンクレジット制度を利用することで排出量のオフセットが可能となり、その取消量を各民間航空当局からCORSIA中央登録簿へ報告する仕組みとなっています。
 国単位の目標であるNDCとは別に、国単位ではない緩和目標の代表的存在で、相当調整の適用が求められる用途での使用はできないものとなっています。
 排出量の把握については全ての国が対象とされ、2021年よりパイロット運⽤が開始。各運航会社は、定められたルールに沿ってオフセット義務量が割り当てられ、必要量の排出枠を購⼊することとなっています。


 ここまで、カーボンクレジットの活用先についての用語を解説しました。
 次に、日本で進められている政府主体カーボンクレジット制度の具体例を解説します。

JCMー二国間クレジット制度ー

 JCM(Joint Crediting Mechanism)は、途上国・新興国に対して、優れた脱炭素技術等の普及や対策を実施することでGHGの削減に取り組み、その削減の成果を両国で分け合う制度のこと。
 A国とB国が排出枠の取引をする際には、『A国がB国を技術支援→B国でGHG削減達成→B国の余った排出枠(クレジット)をA国に移転』といった取引が行われます。また、削減プロジェクトの妥当性については認定機関によって評価が下されます。
 
 政府はJCMとNDCについて、2021年1月1日以降に実現した排出削減・吸収・除去に対して、
「日本国の NDC の達成に活用することができる」ことを公表(JCM実施要項第5条)しています。
さらにJCM実施要項第6条では
「日本国政府は、(中略)JCM クレジットについて、パートナー国政府がパリ協定及び関連する決定文書に従い、パリ協定締約国として NDC の対象となる温室効果ガス排出量に加える相当調整を行うことを求めるものとする。」
と定めており、実際に「パリ協定第6条2項協力的アプローチ」に含まれています。
 
 この協力的アプローチに含まれたことで、JCMはCOP26、27でも注目を浴びました。それはITMOsの二重計上の防止に有用であるためです。また、似たようなクレジット制度としては国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の「クリーン開発メカニズム(CDM)」もありますが、パートナー国との二国間で管理するJCMの方が、柔軟で効率的な仕組みで導入しやすいとされています。

J-クレジット

 日本におけるカーボンクレジットといえば、J-クレジットが思い浮かぶ方も多いでしょう。本制度は経産省・環境省・農林水産省が制度管理者となり、2013年から運営している国内のカーボンクレジットです。省エネ設備の導入や再エネの利用による排出削減量、適切な森林管理による吸収量などを「クレジット」として国が認証しています。

 個人や中小企業等が省エネ・再エネ設備を導入して創出した環境価値をクレジット化するのに一役買っており、国内の脱炭素を効率的に進めるとともに資金循環も促して、環境と経済の両面に貢献してきました。その一方、国内での取引が前提である点から、直接的にNDCへ活用されることはなく、CORSIAでの活用が検討されている状態です。

出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/kankyou_keizai/japancredit/index.html

 ここまで国内の代表的な政府主体カーボンクレジット制度を紹介しました。
最後は、民間主体のカーボンクレジット制度についてとなります。

ボランタリークレジット

 ボランタリークレジットは民間セクター主導で進められるカーボンクレジットです。政府主体のクレジットがNDCへ活用される一方、ボランタリークレジットは企業活動に活用されるのが基本となります。

 ボランタリークレジットの代表的なものとしては
・Verified Carbon Standard(運営機関:Verra)
…対象地域は全世界で再エネ・農林業・土地利用等を対象分野とする
・Gold Standard(運営機関:Gold Standard 財団)
…対象地域は全世界で再エネ・植林等を対象分野とする
・Climate Action Reserve(運営機関:Climate Action Reserve)
…対象地域はアメリカと一部メキシコで林業・家畜管理・廃棄物処理場、フロン破壊を対象分野とする
・American Carbon Registry(運営機関:Winrock International)
…対象地域は全世界で森林・フロン破壊・工業プロセス改善・運輸等を対象分野とする
等があります。
 日本でもJ-ブルークレジットというジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が制度管理者となって認証を行うボランタリークレジット制度などがあり、多くの企業等に活用されてます。

Jブルークレジット

 Jブルークレジットは、ブルーカーボンによって創出したCO2吸収量を排出枠として売買する日本のカーボンクレジット(ボランタリークレジット)で、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が認証を行っています。
 ブルーカーボンとは、藻や水草、マングローブなどの海洋・沿岸生態系が吸収したCO2のこと。クレジットの販売金は管理している、ブルーカーボン生態系の保護・育成プロジェクトへの投資・支援が対象用途となります。

 国内の代表的なボランタリークレジットであるものの、CO2除去効果の算出方法の確立が不十分であるともされており、NDCへの適用などはされていないのが現状です。

まとめ

 ここまで、特に重要なカーボンクレジット用語を解説してきましたが、カーボンクレジットはいくつもの制度が並走しており、その構造も非常に複雑です。まずは基本的かつ重要な用語を抑え、そこを足掛かりにそれぞれの関係性を把握するのに役立てていただければ幸いです。

Sus&Us編集部

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